あれから何時間たったであろうか、
いや、もしかしたらまだ数分しか経っていないのかもしれない・・・。
時間が分からなくなるほど彼はひたすら店内を何周も回っている。
考えがあるのか、まったく何も考えていないのか、
彼の行動からそれを読み取るにはいささか情報が少なすぎる。
メリーゴーランドの馬のように・・・、
周回軌道に乗った衛星のように・・・、
同じ過ちを犯す人間の歴史のように・・・、
ただグルグルと同じところを回っているのだ。

しかし、その目の奥からは黒く鋭い輝きを放っているのが感じ取れた。
それから3周回ると彼はようやく一つの机の上へ腰を下ろした。
ランニングを終えたオッサンのような、
爽やかなはずなのに何故か爽やかさを感じない爽やかな顔をしている。
それどころか軽くニヤついているかのようにも見える。
何かイイ案が浮かんだのかもしれないが、
ただ、それはキモい顔だった。
ヘッ!ベィベ・・・!口癖のようにつぶやいた「ベィベ」は誰に聞かれることもなく消えていった。
しばらくすると見慣れた茶色い毛だまりが彼のところに寄って来た。
彼はすかさず席をずらす。
もう一方の椅子に茶色い毛だまりはでふっと座る。
そしておもむろにあごを机の上に置いた。
「呼んだでふか・・・?・・・・でふ。」「おぅ、悪いな、べぃべ、ちょっと聞きたいことがあってな。」
「それはそうと、今日のカリカリは美味しかったみたいじゃねーか、ベィベ?」「そぅでふか?なんかいろいろ入ってたでふけど、
こぼれちゃうからわからないでふ。」「・・・・そうか、ところでお前さんが最後までカリカリしてたんだよな?
お前さんと最後の方までカリカリしてた奴を誰か見なかったか?べぃべ?」「最後まででふか?最後の方までカリカリしてたのは誰だかわからないでふ。
でも、最初のほうに食べ終わったのは誰だかなんとなく知ってるでふ・・・ふ。」「お!それでも、かわまないんだぜ、教えてくれだぜ、ベィベ!!」「
でふ・・・、たしか黒っぽかった気がするでふ・・・。」
「でふ!それと、洗面の方にも早々と行ったのがいたでふ!しゃ~しゃ~言いながらでふ・・・。」「そうか、ありがとよ!」茶色い毛だまりと話を終えると彼は足早に席を離れた。
そしてチラッと洗面に目を向ける。
彼のいる場所からは洗面の奥までよく確認することはできなかった。
彼は何かが分かったような顔をするとすぐに視線を戻した。
そして今度は一直線に黒がもそもそする方へ足を早めた。
洗面の奥からはかすかにしゃがれた鳴き声が聞こえる。
それはまるで遠くの方で包丁を研ぐかのような声だった。
ちょっと!水はまだでちかね?!!
「休んでるところ悪いな・・・ちょっと隣、失礼するぜ、べぃべ!」「なんなのね~?どうせくだらないこと聞きに来たのね?
ネロは何も知らないのね~。自分のカリカリしか食べてないのね~。
レディーは人のカリカリには手を出さないのね~。」
「?!!・・・ベィベ!!何でもお見通しって訳か・・・。
お前さんには敵わねーぜ、ベィベ!」「バカなことしてないで諦めるのね~・・・。
どうしてもって言うなら教えてあげるのね~。」
「誰も食べてない皿の隣は確か白っぽいのと黒っぽいのがいたのね~。」
「べぃべ・・・、いつも悪いな・・・サンキューだぜ、ハニー!」真ん丸い視線に背中を見つめられつつ彼はソファーから飛び降りると、
そのまままっすぐと走り出した。
目の前にある段を三段ほど駆け上がるとドカッとその場に横になった。
彼の顔から一瞬の疲れが垣間見える。
食う・寝る・遊ぶ以外の行動は彼ら種族にとっては逸脱したものなのだろう。
明らかに彼の細胞が彼の愚行に反旗を翻している。
もぅ、諦めちまおうか・・・そんな本能にも忠実な思いが彼を襲う。
あんなに寝たにもかかわらず再びウトウトしかけたときだった、
もう一匹の黒いもそもそが彼の下にやってきた。
「でしー!なんか、ここに行くように言われたんでしー!」「悪ぃーな、ベィベ!オレ様がここに来るように伝えてもらったんだぜ、ベィベ!」遠くソファーの上で真ん丸いお目目が パッパッ! と二回瞬いた。
彼はそれに気が付くとうっすら左の口角をあげてニヤッと微笑んだ。
しかしすぐに顔を戻すと黒いもそもそに高圧的に問いかける。
「おぃ、ベィベ!お前さんがいつも食には意地汚いのを知ってるぜ?!
もしかしたら今日、誰も食べていなかった皿まで手をだしたんじゃねーのかぃ?!そのところどーなんだぜ、ベィベ?!!」「でしー!たしかに今日は二皿目も食べたでしー!」「?!!!っ!! やっぱり、オメーか!ベィベ!!」「でしー、たしか途中で洗面に行ったのがいたでしー!」
「その食べ残しをいただいたでしー・・・。悪かったでし・・・。」「洗面に行った奴の食べ残し?!!
そうか・・・、それならイイんだぜ、こっちこそ悪かったぜ、ベィベ!」苦虫を潰したような苦い顔をしながら彼はゆっくりと段をおりた。
トボトボと歩く姿に力は感じられなかった。
こころなしかいつもより縞模様が縮んでみえる。
彼はキャットタワーの下につくと一番上に置いてある鍋を見つめた。
そして、残された力をふりしぼって一気に最上階までジャンプした。
腐っても猫、いや、腐っている猫・・・・。
力を使い切った彼は体力を回復をはかるべく、
しばらく鍋で休むことにしたのであった・・・・・。

遠くではシャーシャーと包丁を研ぐような音がまだ聞こえていた・・・。
to be continued・・・ちょっと、水はまだなんでちかね?! ↓↓↓
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次回予告の予告
簡単に
終わるはずだった物語は思わぬ方向へと流れていく・・・
彼に巻き込まれる猫たちの
運命は?!
こじんまりとしたスケールで書かれるCateriamの物語・・・
一体、何話まで続くのか?
ノープランで始まった物語が大きなプレッシャーへと変わる。~第参話予告編~近日公開
第参話意欲制作中!!おたのしみに・・・。